日本が超高齢社会を迎える中で、住宅のバリアフリー化は喫緊の課題となっています。特に浴室は家の中で最も事故が発生しやすい場所であり、その中心にある浴槽の形状が居住者の安全を左右すると言っても過言ではありません。ある事例では、七十代のご夫婦が暮らす一軒家で、昔ながらの深い和式浴槽を最新のユニバーサルデザイン浴槽に交換する工事が行われました。以前の浴槽は高さが六十センチ以上もあり、足腰が弱ってきたご主人にとって、浴槽をまたいで入る動作は常に転倒の恐怖を伴うものでした。また、浴槽の内側が滑りやすく、立ち上がる際にも踏ん張りがきかないという問題を抱えていました。この問題を解決するために導入されたのが、またぎ込みの高さが約四十センチに設計された低床型浴槽です。さらに、浴槽の縁が広く設計されており、そこに一度腰掛けてから足を一本ずつ入れる「腰掛け入浴」ができるタイプを選びました。この動作を取り入れることで、片足立ちになる不安定な時間をなくし、安全に入浴することが可能になりました。浴槽の底面には特殊な滑り止め加工が施され、浴槽の壁面にはしっかりと握ることができるグリップが一体化されています。これに加えて、浴槽交換に合わせて壁面にL字型の手すりを設置したことで、入浴から立ち上がり、浴室からの退出までの一連の動作が格段にスムーズになりました。また、安全面だけでなく健康面への配慮もなされています。高齢者にとって冬場の浴室でのヒートショックは命に関わるリスクですが、今回交換した浴槽は断熱構造が強化されており、浴室全体の温度低下を和らげる効果があります。施工後、ご家族からは「お風呂に入るのを嫌がっていた父が、今では一人で楽しそうに湯船に浸かっている」という嬉しい報告がありました。浴槽交換は、単に古いものを新しくする工事ではありません。そこに住む人が、いつまでも自分自身の力で清潔を保ち、リラックスできる環境を整えるという、尊厳を守るための大切な改修なのです。身体機能の変化に合わせて設備を最適化することは、介護予防の観点からも極めて有効な投資であると言えるでしょう。
高齢者の自立を支える安全な浴槽交換の実践例