ある土曜日の午後のこと、私はのんびりと読書をしながら、お茶を淹れようとキッチンの蛇口を捻りました。しかし、出てきたのは「シュー」という空気が抜けるような音だけで、水は一滴も出てきませんでした。驚いて洗面所やトイレも確認しましたが、家中どこの蛇口を回しても反応がありません。最初はマンション全体の定期点検かと思いましたが、掲示板にはそんな告知はありませんでしたし、共用廊下からは隣の住人が掃除機をかける音が聞こえ、生活に支障が出ている様子はありませんでした。つまり、私の部屋だけが陸の孤島のように水から見捨てられた状態だったのです。私はすぐに管理会社の緊急連絡先に電話をかけましたが、オペレーターからは「まずは玄関先の元栓を確認してください」と言われるばかりでした。半信半疑でパイプシャフトを開けてみると、そこにあるバルブは確かに開いているように見えました。しかし、よくよく見てみると、バルブの向きが微妙に斜めになっていたのです。管理会社のスタッフが到着して調査した結果、原因は驚くべきものでした。同じフロアで退去した部屋の水道を止めに来た作業員が、部屋番号を間違えて私の部屋の元栓を閉めてしまっていたのです。その後、さらに別の要因が重なっていました。中途半端に閉められたバルブの影響で、配管内に急激な圧力の変化が起き、自室の減圧弁がセーフティモードのようにロックされてしまっていたのです。バルブを全開にしても水が出なかったのはそのためでした。作業員が特殊なリセット操作を行うと、ようやく水が勢いよく流れ出し、私の平穏な日常が戻ってきました。この経験から私が学んだのは、マンションという複雑なシステムの中で、自分の部屋のライフラインがいかに脆弱であるかということです。また、自分の部屋だけ水が出ない時は、必ずしも機械の故障だけでなく、こうしたヒューマンエラーが介在する可能性があることも知りました。それ以来、私は定期的にパイプシャフトを開けて、自分の部屋のメーター番号とバルブの状態を写真に撮って保存するようにしています。異常が起きた時に「普段と何が違うか」をすぐに比較できるようにするためです。
私のマンションで起きた不可解な断水事件とその教訓